第7章 章末問題解答
7.1
 梁の上端筋が引張降伏するときの引張力はT =6×1140×400 =2.74×106 Nである。このときの接合部内の水平せん断力は,Qj = (2.74 - 0.52)×106 = 2.22×106 Nである。一方,接合部のせん断強度の基準値Fjは,0.8×300.7 = 8.65 N/mm2,接合部の有効幅bjは (500+800)/2 = 650 mmである。折り曲げ筋の水平投影長さは,一段目の主筋(4-D38)が650 mm,二段目の主筋(2-D38)が600 mmであるので,その加重平均は(4×650 + 2×600) /6 = 633 mmである。よって,Qju = 0.7×8.65×650×633 = 2.49×106 Nとなる。Qj < Qju であるから斜め圧縮破壊は生じない。
 梁の下端筋が引張降伏するときの引張力はT =4×1140×400 =1.82×106 Nである。このときの接合部内の水平せん断力は,Qj = (1.82 - 0.52)×106 = 1.30×106 Nである。一方,接合部のせん断強度の基準値Fjは,0.8×300.7 = 8.65 N/mm2,接合部の有効幅bjは (500+800)/2 = 650 mm,折り曲げ筋の水平投影長さは550 mmであるから,Qju = 0.7×8.65×650×550 = 2.16×106 Nとなる。Qj < Qju であるから斜め圧縮破壊は生じない。


7.2
 適切なのは,(1)(4)である。逆に,非常に不適切なのは(3)(5)である。6つの接合部が長期荷重・地震荷重を受けたときに適切な釣合状態が形成されるかどうかを表7.1に示す。
 
一例として,接合部(4)が長期荷重を受けた状態を図7.30(a)に示す。梁の端部では上端引張・下端圧縮の曲げモーメントが生じる。柱には,左側引張・右側圧縮の曲げモーメントが生じる。接合部(4)の場合,図7.29(a)のように,梁上端筋の引張力と柱の左主筋の引張力とが接合部の左上隅でコンクリートに圧縮力を与え,右下隅の圧縮力と釣り合うのである。接合部(1)(2)(5)(6)でもこれと同様の釣合が成立する。接合部(3)だけは,不適切である。梁の上端筋と柱の左側主筋の間に縦方向のひび割れが発生して,釣合状態が成立しない。


 次に,接合部(4)が左側からの地震荷重を受けたときの状態を図 34(a)に示す。このとき,梁・柱の曲げモーメントは長期荷重時と逆向きになる。梁の上端の圧縮力は,柱の主筋の折り曲げ位置で斜め45度に方向転換する(図 34(b)参照)。さらに,この斜め圧縮力は,梁主筋の折り曲げ位置で方向転換し,柱の圧縮力と釣り合う。接合部(3)(4)でもこの事情は同じであり,十分な強度を発揮できる。


 これに対し,接合部(2)は,下端筋を下向きに折り曲げているので,圧縮力の角度が図35のように垂直に近くなり,やや低い強度になる(柱の圧縮力と引張力の距離が図34より近いことに注意してほしい)。接合部(6)は,主筋の折り曲げ位置が浅いため,図36のような釣合機構になり,これも強度が低い。最後に,接合部(5)は,梁下端筋と柱主筋の引張力の行き場がないために,釣合機構が成立せず,図37のように破壊する。


7.3

 正解は3である。すなわち,梁(2)の方がかなり強い。まず,曲げ強度について考えてみよう。梁(2)の根元における主筋の重心から圧縮縁までの距離は900mmであり,梁(1)の4/3倍である。梁(b)の根元における主筋の断面積は梁(1)の3/4倍である。したがって,根元での曲げ強度は等しい。しかし,梁(1)には重大な欠陥がある。梁(1)の釣り合いを図7.35に示す。破線が主筋による引張力を,実線がコンクリートによる圧縮力を表す。点Cは主筋の定着位置を表す。点Dの下から加わる矢印は柱の圧縮力を表す。荷重が点Aに加わると,主筋ABCをまっすぐにしようとする作用が生じ,それに抵抗する要素が存在しないため,梁はこわれてしまう。

 具体的には,B点まわりのかぶりコンクリートが主筋に押し出されるように剥落し,主筋が露出するとともに,図39のように大きな曲げひび割れが生じる。B点のまわりに強力なあばら筋がある場合には,図40(a)のように釣合が成立するが,B点での釣合は図40(b)のようになり,BE間の引張力TBEは通常のトラス機構(つまりTBCが水平な場合)に比べてかなり大きなものになる。


 一方,梁(2)の場合は,図41(a)に示すような釣合が成立する。これをもっと詳しく描くと図41(b)のようになる。