よくある質問と回答
<Q>
阪神大震災では,縦揺れが大きかったということですが,図1.6では地震力として横力だけが描かれています。縦揺れは考慮しなくてもよいのですか?(匿名希望・男・学生)
<A>
確かに,阪神大震災では横揺れに匹敵するような大きさの縦揺れがありました。しかし,建物は鉛直荷重に対する安全性がもともと高いのです。もしそうでなかったら,建物は常時荷重によってひび割れだらけになってしまいます(詳しくは3章)。したがって,通常の建物であれば,横揺れだけを考えて耐震設計すればよいのです。

<Q>
プレストレストコンクリート(PC)の原理が図1.10に示されていますが,PC鋼棒をあらかじめ引っ張っておくわけですから,図1.10の部材の引張強度は,PC鋼棒自体の引張強度より低くなるわけでしょうか?(本村拓哉・男・学生)
<A>
意外かもしれませんが,実は引っ張る前の強度と同じなのです。下のアニメをご覧下さい。

PC 1. プレストレスのみが加わった状態。コンクリートには圧縮力が加わっている。このとき,(PC鋼棒の引張力)=(コンクリートの圧縮力) である。
2. 外力(引張)を加えると,コンクリートの圧縮力が減少する。このとき,(外力)=(PC鋼棒の引張力)ー(コンクリートの圧縮力) である。
3. 外力が増加すると,コンクリートの圧縮力が消滅し,ひび割れが発生する。
4. ひび割れ後は,(外力)=(PC鋼棒の引張力) になる。
5. PC鋼棒が引張降伏すると,剛性はゼロになる。この時の外力はPC鋼棒自体の降伏強度であり,プレストレスの有無に無関係。

<Q>
p.4で紹介されたコンクリートのリサイクルについてもう少し教えてください。(アブク・男・学生)
<A>
雑誌「コンクリート工学」1997年7月号を見ていただくのが一番よいのですが,少し紹介しましょう。平成7年度におけるコンクリート解体ガラの発生量は3600万トンで,国民一人あたり340kgです。このうち,再利用率は65%です。この割合は大都市ほど高いそうです。しかし,現在のところ,その用途はほとんどが路盤材(道路を舗装する前に地ならしをするための材料)であり,コンクリート用骨材としての再利用はまだ試験段階です。下記のホームページも参考にしてください。これ以外にも多くの大学・企業が取り組んでいます。
 東急建設HP(建築分野で初めて本格利用)
 大有建設HP(路盤材への利用に貢献)

<Q>
4章の章末問題4.3の解答では図Aのように考えて梁の曲げモーメントを計算していますが,小錦関がI教授の体重も支えているわけですから,図Bのように二人分の体重350kgに距離10mを掛けるのが正しいのではないのですか? ついでながら,市之瀬先生が体重100kgというのは本当ですか?(ラルク大好き・女・学生)
図A 図B
<A>
ご指摘の通り,I教授は梁の上に乗っていませんから,梁に荷重を加えているのは,小錦の両足だけです。しかし,実際のところ,小錦は図Cのようにほとんど左足だけで二人分の力を支えているのです。小錦とI教授の合計の重心位置がちょうど左足の位置にあると思ってください。ですから,梁にとっては,図Aのように考えても同じ事になります。なお,私の本当の体重は60kgです。
図C

<Q>
p.113の「主筋量が少なく,せん断ひび割れがほとんど生じない梁では平面保持が成立するが,せん断ひび割れが多く発生する梁では図5.25(C)のような応力分布になる」という説明が理解できません。(山下憲康・豊橋技術科学大学大学院M1)
 
<A>

  トラス機構は,せん断ひび割れの発生を前庭としていることに注意して下さい(p.105)。せん断ひび割れが発生するまでは,横補強筋に応力は発生せず,従って,トラス機構の出る幕はないのです。その結果として,ほぼ平面保持が成立することになります。「主筋量が少なく」というのは,「せん断ひび割れがほとんど生じない」ための一例であり,主筋量が多くても,梁の長さが十分に長ければ同じ事になります。

  くどいかも知れませんが,別の例でも説明しましょう。図1をご覧下さい。これは,縦横に配筋されたコンクリート板がせん断応力を受け,せん断ひび割れが入る前の状態です。この状態では,鉄筋に応力は生じません。図2のようにせん断ひび割れが入ると,鉄筋に引張応力が生じるのです。そしてこの引張応力をキャンセルするだけの斜め圧縮応力がコンクリートに生じ,応力のモール円は右にシフトします。これがトラス機構の状態です。

  さらにくどくなりますが,平面保持仮定で主筋の応力を計算すると,図3(c)の破線のようになります。曲げモーメントがゼロになる部材中央では主筋の応力がゼロになります。さらに,曲げモーメントがひび割れモーメントより小さくなる領域(図3(d)の一点鎖線の内側)では,その外側よりも応力が小さくなります。せん断ひび割れが入らない梁では,図3(c)の破線のような応力分布が得られるということになります。最も,純曲げ状態でない限り,梁の端部には多少のせん断ひび割れは入りますから,完全に図3(c)の破線のような応力分布となることはまれであり,図3(c)の破線と実線の中間的な値になることが多いのです。

<Q>
図5.11(j)のBとCの斜めひび割れはどちらが先に生じるのですか。式(5.8)やその下の式によるとBとCは同じせん断応力度が生じるので、同時に生じるのですか。だとすると、図5.13(c)の絵では、なぜ、中央のせん断ひび割れだけが進展しているのですか。(森脇百合香・高知工科大学大学院M1)
<A>
これは少々難しい問題です。まず,BとCの斜めひび割れは,ほぼ同時期に起こると考えてもらって結構です。厳密に言えば,どちらが先に起こるかわからないというのが本当のところだと思います(これについては異論のある先生もいるかもしれません)。しかし,Bが先に生じたとしても,このひび割れがそのまま拡大することは起こりにくいのです。その理由は,Bの下にある曲げひび割れが縦方向であり,しかも骨材のためでこぼこしているため,そのまま上下方向にずれることが困難だからです。これに対し,図5.13(c)のひび割れは上下方向に開きやすい形態をしています。ただし,Bのひび割れ位置(つまり部材端)から新たに図1のようなひびわれが拡大することもあり得ます。要するに,せん断補強筋のない梁のせん断引張破壊は非常に不安定であり,いろいろな位置での破壊があり得ると理解して下さい。これは,無筋コンクリートを引っ張ったときどこで壊れるかわからないのと似ています。

<Q>
p.113の「主筋量が少なく,せん断ひび割れがほとんど生じない梁では平面保持が成立するが,せん断ひび割れが多く発生する梁では図5.25(C)のような応力分布になる」という説明が理解できません。(山下憲康・豊橋技術科学大学大学院M1)
 
<A>

  トラス機構は,せん断ひび割れの発生を前庭としていることに注意して下さい(p.105)。せん断ひび割れが発生するまでは,横補強筋に応力は発生せず,従って,トラス機構の出る幕はないのです。その結果として,ほぼ平面保持が成立することになります。「主筋量が少なく」というのは,「せん断ひび割れがほとんど生じない」ための一例であり,主筋量が多くても,梁の長さが十分に長ければ同じ事になります。

  くどいかも知れませんが,別の例でも説明しましょう。図1をご覧下さい。これは,縦横に配筋されたコンクリート板がせん断応力を受け,せん断ひび割れが入る前の状態です。この状態では,鉄筋に応力は生じません。図2のようにせん断ひび割れが入ると,鉄筋に引張応力が生じるのです。そしてこの引張応力をキャンセルするだけの斜め圧縮応力がコンクリートに生じ,応力のモール円は右にシフトします。これがトラス機構の状態です。

  さらにくどくなりますが,平面保持仮定で主筋の応力を計算すると,図3(c)の破線のようになります。曲げモーメントがゼロになる部材中央では主筋の応力がゼロになります。さらに,曲げモーメントがひび割れモーメントより小さくなる領域(図3(d)の一点鎖線の内側)では,その外側よりも応力が小さくなります。せん断ひび割れが入らない梁では,図3(c)の破線のような応力分布が得られるということになります。最も,純曲げ状態でない限り,梁の端部には多少のせん断ひび割れは入りますから,完全に図3(c)の破線のような応力分布となることはまれであり,図3(c)の破線と実線の中間的な値になることが多いのです。

<Q>
p.4には紙のような薄いコンクリートのことが書いてありますが,これは何のために作られたのですか?(日本大学大学院M1・三島隆路)
<A>
この問題については,山田順治先生が「コンクリートはどのくらいまで薄くつくれるか」という論文を「コンクリート工学」誌1988年1月号のp.23〜27に掲載しています。これによると,1983年にオーストラリア・シドニー大学の先生と学生が0.6mmの極薄コンクリートを作ったという記録があります。これは,コンクリート製のカヌーで速さを競うという国際競技会(開催国スウェーデン)へ,船体の材料つまりコンクリート板を運ぶのに,通常の厚さでは運賃がかかりすぎるので,運賃を節約するために悪戦苦闘して作り上げたものだそうです。コンクリート板は私の本のp.45に示したように,丸めて輸送し,現地で組み立てたそうです。シドニー大学はこのカヌーで特別賞をもらいました。さらに,1997年の日本コンクリート工学協会名古屋大会では,コンクリートアートミュージアムという企画があり,頴原正美氏が厚さ0.5mmのコンクリート板を展示しています。愛知工業大学の森野先生のページに写真が載っています。ただ,いずれもあまり実用的な用途でないのが残念です。セメント系の材料で飛行船を作ったらというアイディアがあったそうですが,実現していません。その他,電波吸収コンクリートなど,変わったコンクリートについて,コンクリート工学の1998年1月号に特集されていますから,ご覧になるとおもしろいと思います。